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CRYING IS GOOD FOR YOU -涙は魂の清涼剤-

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2018.3.2
From マックス桐島

ステープルセンターのVIPボックス


「Tear Jerker」という言葉は、涙を誘う話や映画の呼称。

 涙腺が刺激されて号泣するという行動は、魂が揺さぶられた際に起こる反応だけに、泣いた後のスッキリ感は風呂の後のビールのような清涼感を与えてくれます。

 良くも悪くも、人前で感情を表現することを躊躇しないアメリカ人は、「男だから人前で泣くのは恥ずかしい」とか、「涙もろいのは弱点」という観念があまりなく、映画館やスピーチなどで感極まって涙ぐむ人をよく見かけます。

 特に、NFL、NBA、MLB、NHLの4大プロスポーツが四季を通じて楽しめるせいか、地元ファンの熱狂的な感情移入は、優勝すると警察も出動するほどのバカ騒ぎを起こす過熱ぶりなのです。

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by Keith Allison


 ハリウッド映画業界にも地元レイカーズ、ドジャース、キングスのファンは多く、高額なコートサイド席やネット裏席のシーズンンチケットを数席確保し、クライアントの接客用に使うスタジオやプロデューサーも少なくありません。

 数年前、レイカーズの本拠地ステープルセンターのVIPボックスを借り切って主催された大手スタジオのパーティーは、プレイオフ中ということもあって参加者のノリは凄いものでした。
 階下に見下ろすコートの試合をガラス越しに声援する人たち、テラスに出て肉眼で観戦するグループ。サーブされるフィンガーフードとシャンパン片手に、全員がジャック・ニコルソン(コートサイド席の常連)のクローンのようなテンションで試合に熱中しました。

人生のあらゆる面で一球入魂


 ハーフタイムとなると、そこはショービズの猛者たち。映画企画や開発中のプロジェクト、スターたちのゴシップネタで盛り上がります。「ルディ/涙のウイニング・ラン」を大ヒットさせたプロデューサーが黙々とチキンフィンガーを平らげているのを目撃した僕は、何気なく近づき囁きました。


「やっぱり、テレビで観るのとは迫力がちがいますよね」
「もちろんさ!映画だって劇場で観るのと自宅で観るのでは大違い。やはりこういう『箱』にセミ監禁状態になって、自分とスポーツという絆を感じてこそ臨場感が増すってもんさ」


 なるほど。眼前のゲームと一心同体になって「チームの憂いにハラハラし、ひいきの選手の活躍にダンスする」彼の姿は、スポーツだけでなく人生のあらゆる面で一球入魂しているのだなぁと思わせてくれる新鮮さに満ちていました。

 そして、スリリングな試合が終盤を迎え、スーパースターのコービ・ブライアントが試合終了のブザーと共にスコアした左サイドからのウィニング・ジャンパーは、満場の観客の「ウォーッ!」という轟音とも歓声ともつかぬハイボルテージのお祭りシーンの引き金となりました。

涙するチャンスは、感情の豊かさを磨く絶好の機会


 ボックス全体がハイファイブ(ハイタッチ)とハグ(抱擁)の嵐でどよめく中、彼が僕に近寄って囁きました。

「こういうユーフォリア(多幸感)を感じられる映画を創ろう!」

「I’m with you, man!(同感!)」と涙声でハグする僕に、「泣くのは素晴らしいこと。魂を浄化してくれる清涼剤だからね!」と今度はまさにベアハグを返してくれた彼の瞳も濡れていました。

 人間の感情は、筋肉同様、常に磨いていないと錆びてしまいます。錆びるということは感動の伝わりが鈍くなって心が震えることが少なくなるということ。たかがバスケのゲーム、他愛のないメロドラマ映画とあなどることなかれ。スポーツや映画、自分や周囲の喜びに涙するチャンスは、感情の豊かさを磨く絶好の機会。

 人目をはばからずに涙し、登場人物や見かけた光景や物体の美しさに心揺さぶられる瞬間こそが、周囲を感動させるEuphoriaを創造する修練の場でもあるのだと思います。

 

 

 

 

マックス桐島

人物紹介写真

ハリウッド映画プロデューサー
神奈川県出身。
ハリウッドで1990年以来、『Night of the Warrior (邦題「ナイト・ウォリアー」)』『Ulterior Motives (邦題「隠された動機」)』『Samurai Cowboy (邦題「ワイルド・ハート/遙かなる荒野へ」)』など13作品をプロデュース。また手掛けた作品は2001年度アカプルコ国際映画祭最優秀作品賞。2002年度ニューヨーク・インディペンデント映画ビデオ映画祭最優秀スリラー作品賞、主演男優賞などを受賞。著書に『NYビジネスマンはみんな日本人のマネをしている』(講談社プラスアルファ新書)など多数。
http://www.amazon.co.jp/-/e/B004LRJOSM

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