写真

言葉

BLESSING IN DISGUISE -幸運は変装の名人-

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINEで送る

photo by Jonathan Kos-Read

2018.4.6
From マックス桐島

インターン時代の雑用

 映画業界だけでなく、アメリカのビジネスシーンで頻繁に使われることわざが「Blessing in disguise(辛いが、後でためになること)」です。
 
 何か問題が起こったとき、それを壁ととらえるか、チャンスととらえるか。

 知らず知らずのうちに二者択一のフォーク(岐路)に立っているという実感はなかなか修行を積まないと得られないものですが、学生時代の夏休みの体験で、僕はこの諺の持つ偉大なる底力を生き様に活かせるようになったのです。

 ワーナー・ブラザース映画のインターンをした70年代のカリフォルニア・サマー。真夏の太陽の中、プロデューサーのポルシェの洗車、バックロット(スタジオ裏にある野外撮影所)にいるスタッフへのメモの配達と、映画製作とは程遠い雑用を次から次へと命令される日々が続きました。

浅はかな考え

 ある日、製作担当のスタジオ重役の息子が学校で怪我をしたので、多忙な重役の代わりに息子を迎えに行くようにという指令が、つかの間のランチをむさぼる我々インターンのウォーキー(無線電話)に響きました。

 お互いに顔を見つめ合って、誰が貧乏くじを引くかを探り合う僕たち。すると、何かに背中を押された一人の女性が「私が行くわ」と手を上げて駆け足で立ち去りました。
 両手をあげて安堵感を表しランチを終えた僕たちでしたが、「丘の向こうのビバリーヒルズまで行かされなくてラッキー!」という思いが、いかに浅はかだったのかを、数日後に全員が知らされることになるのでした。

 体育の授業中に捻挫をした重役の息子を、学校から家に届けただけでなく、誰もいない家で寂しいだろうと、意気消沈する小学生のためにサンドイッチを作って一緒に数時間テレビを観てあげた女性インターンは、数日後、酷使されるゴーファー職(Go for this, go for thatのまさに雑用係り)から開放されたのです。そればかりか、その重役つきのアシスタントとして、カリブ海のロケ先に帯同するプロモーションの恩恵を受けて僕たちの羨望の的となったのです。

幸運の仮の姿

3写真

by Sara Cimino

「Brown noser(ゴマすり)」と彼女の陰口をたたくインターン仲間の言葉を聞いた重役が一言静かにつぶやきました。

「幸運は時折作業服を着てドアをたたく。汚れて大儀そうだから誰も家に入れようとしない」

「?」と顔をしかめる僕たちに、彼はこう続けたのです。

「彼女は、遠いドライブ、怪我の世話、上司の子供との会話、緊張感という一見やっかいに見える不運を自らハンドル(仕切る)しようとしたよね。見向きもしなかった君たちとはちがって……」

 その日以来、僕たち全員が、難解なアサインメントの陰に隠れたチャンスをモノにしようと積極的に仕事をこなすようになったのは、ある意味、スタジオ重役の周到な人たらしの術であったのかもしれません。

 ですが、そのお陰で、我々全員が「幸運は変装して現れる」という現象に敏感になったことは、ありがたい教訓でした。

「幸運とは準備と機会の巡り合わせに過ぎない」というのも業界人がよく使うセルフ・エンカレッジメント(自己奮立)のことわざ。
 幸運が汚いやっかいそうな格好でドアをたたいたとき、大手を開いて迎え入れる準備と、これはチャンスなのだと見極める眼力を養っておくことがいかに大切かは、カリブ焼けした女性インターンの一皮剥けた(実際、剥けてた!)姿が物語っていました。

 

 

 

 

マックス桐島

人物紹介写真

ハリウッド映画プロデューサー
神奈川県出身。
ハリウッドで1990年以来、『Night of the Warrior (邦題「ナイト・ウォリアー」)』『Ulterior Motives (邦題「隠された動機」)』『Samurai Cowboy (邦題「ワイルド・ハート/遙かなる荒野へ」)』など13作品をプロデュース。また手掛けた作品は2001年度アカプルコ国際映画祭最優秀作品賞。2002年度ニューヨーク・インディペンデント映画ビデオ映画祭最優秀スリラー作品賞、主演男優賞などを受賞。著書に『NYビジネスマンはみんな日本人のマネをしている』(講談社プラスアルファ新書)など多数。
http://www.amazon.co.jp/-/e/B004LRJOSM

関連する記事

タイトル写真
心こそデトックスを!
記事を読む
タイトル写真
アイデアのつかみ方
記事を読む
タイトル写真
「ネガティブワード」の恐怖
記事を読む